危険! 木密地域とその安全を巡る課題

多くの自然災害リスクを抱える日本において、災害に強い地域づくりは重要な課題です。しかし、東京には未だ多くの木密地域が存在し、地震や火災への脆弱性が懸念されています。今回は、そんな木密地域について考えていきます。

木密地域とは

木造住宅が密集する地域を、木密地域といいます。東京都は、以下の指標の全てに該当する地域を木密地域に指定しています。

・木造建築物棟数率1)木造建築物棟数率:木造建築物棟数/全建築物棟数 70%以上

・老朽木造建築物棟数率2)老朽木造建築物棟数率:昭和 45 年以前の木造建築物棟数/全建築物棟数 30%以上

・住宅戸数密度 55 世帯/ha 以上

・不燃領域率3)不燃領域率:市街地の「燃えにくさ」を表す指標。建築物の不燃化や道路、公園などの空地の状況から算出する。不燃領域率が70%を超えると市街地の延焼による焼失率はほぼゼロとなる。 60%未満

東京では、山手線外縁部を中心に16,000 haの地域が木密地域に指定されています。これは東京23区の面積のおよそ25%にあたる数字で、東京の非常に広い範囲で木密地域が残っていることが見て取れます。

図1:東京都の木密地域(出典:東京都「木密地域不燃化 10 年プロジェクト」実施方針

木密地域の危険性

地震による倒壊が危険

木密地域には、現在の法律の耐震基準を満たさない、老朽化した住宅が多く残っています。万が一東京を大地震が襲った場合、これらの住宅が倒壊することで多くの犠牲者が出てしまうことが懸念されています。また、住宅の倒壊によって生じたがれきが道路をふさぐことで消防活動や周辺住民の避難の妨げとなり、さらに多くの犠牲を生む原因にもなってしまいます。

延焼が危険

木密地域は住宅同士の距離が非常に近いことに加え、広い道路や公園に乏しいことが多いため、ひとたび火の手が上がると周りの多くの住宅に火災が延焼し、大きな被害が出てしまうと予想されています。内閣府は首都直下地震の死者を最大で23000人と見積もっていますが、その7割が火災によるものであると予測しています。

東京都墨田区京島地区(2016年5月)

図2は、首都圏の各地域において首都直下地震発生時に全壊・消失する建物の数を250㎡当たりでを示した地図です(出典:内閣府 首都直下地震の被害想定と対策について)。被害が大きな地域が、図1で示した木密地域の位置をなぞるように分布していることが見て取れます。内閣府は、首都直下型地震発生時、建物倒壊等と合わせ最大約610000棟の建物が焼失すると予測しています。内閣府は、首都圏の地下でマグニチュード7級の地震が発生する確率を「30年以内に70%」と見積もっています。木密地域の危険性の除去は、地震災害から多くの命を守るための最も重要な課題であると言えるでしょう。

図2:首都直下地震発生時の250mメッシュ別の全壊・焼失棟数(冬夕、風速8m/s)

東京都の対応

首都直下地震の切迫性や東日本大震災の発生を踏まえ、東京都は「木密地域不燃化10年プロジェクト」の策定などを行い、木密地域の不燃化に取り組んでいます。しかし、以下に挙げる要因が、木密地域不燃化の妨げになってきました。

既存不適格

現在の建築基準法では、幅員4mの道路に面さない敷地には住宅を建ててはいけないことになっています。しかし、現行法に改正される前に建てられた木密地域の建物の多くはこの条件を満たしていないため、建て替えをすると住宅を狭くしなければならなかったり、敷地が狭くそもそも建て替えそのものが困難であったりします。したがって、住民は老朽化した住宅を建て替えずそのまま暮らし続けることを選び、これが木密地域の解消がすすまない一因となっています。

居住者の高齢化

木密地域の住民の高齢化が進み、住宅の建て替え意欲が低下したことが、不燃化推進の妨げになっています。

複雑な権利関係

木密地域では個々の住宅の敷地が小さいことからも見て取れるように、土地の細分化が進んでいます。細分化された土地では権利関係が複雑に絡み合っており、これが建物の建て替えや都市計画道路の整備などに係る合意形成を難しくしています。

便益の「ただ乗り」問題

老朽化した木造住宅を建て替えれば、家主の安全性が高まるだけでなく、周辺地域の安全性も高められます。このとき”賢い”住民は、自分は建て替えを行わなくても周りの住民が建て替えを行えば、「地域の安全性の向上」という同じ便益を得られることに気がつきます。建て替え費用を負担しなくても同じ便益を得られるのなら、”賢い”住民は住宅の建て替えを当然「他人任せ」にし、建て替えを行った住民がもたらした便益に「ただ乗り」しようとします。このことが、木密地域の更新が進まない構造的要因になっています。

歴史的街並みの保全やコミュニティへの配慮

ここまで、木密地域の危険性とその除去が進まない構造的要因について見てきました。では、木密地域の全てをいますぐ除去してしまうのが良いかというと、そう単純な話ではありません。木密地域には、良好な地域コミュニティが形成されていることが多く、建て替え施策の加速によってコミュニティを破壊してしまうことは、地域住民にとってたいへんな精神的苦痛をもたらします。また、木密地域では昔ながらの街並みがそのまま残り、それが地域独自の魅力の源となっている場合もあるため、歴史的街並みの保全にも配慮した施策が求められます。

まとめ

今回は木密地域の危険性とその除去を巡る課題についてご紹介しました。多くの命を守るためにも、木密地域の危険性は一刻も早く除去されなければなりません。一方で、地域のアイデンティティや住民が抱える事情への配慮も忘れてはなりません。住民と行政が対話を重ね、木密地域のリスクと住民の暮らしの実情の相互理解に努めることが、木密地域に暮らす人々の命と生活を守る一番の近道ではないでしょうか。

脚注   [ + ]

1. 木造建築物棟数率:木造建築物棟数/全建築物棟数
2. 老朽木造建築物棟数率:昭和 45 年以前の木造建築物棟数/全建築物棟数
3. 不燃領域率:市街地の「燃えにくさ」を表す指標。建築物の不燃化や道路、公園などの空地の状況から算出する。不燃領域率が70%を超えると市街地の延焼による焼失率はほぼゼロとなる。